マイナスの時間軸
音楽を、演奏できるヒトになるか、聴くだけのヒトになるかの違い、
そのポイントは、たったひとつしかないと思う。
音が鳴ってからその音に反応するか、音が鳴る前にその音に向かって反応できるか、
音が鳴ったところを0秒、
それを基準として、
マイナスの時間軸を意識して、
ぴったり0秒のところに焦点を合わせ、
0秒から逆算して身体を反応させることができるかどうか。
それはむずかしいことじゃなくて、
声を出す前に息を吸うことや、
ボールを投げる前に振りかぶることとか、
人間ならだれでも日常的にしていることと同じことなのだけれど、
みんなと合奏するとなると、できなくなるヒトが少なくない。
できるヒトには当たり前に、連続的に感じられる0地点より向こう側のマイナスの時間軸、
それが、音楽をタイミングよく演奏できない、いわゆるリズム音痴なヒトにとっては、
大きな0の壁のようなものを錯覚しているかのように見える。
でも、ほんとはそれは錯覚だから、
日常的にしていることをただ、楽器の演奏にも応用するだけのことだから、
その0地点の壁を超えられたとき、
その先のマイナスの時間軸に足を踏み入れたとき、
ようやくそのヒトは、音を受け取る側から、発信する側に変身するのだと思う。
つまりマイナスの時間軸、
この、音が鳴っていないフィールドこそ、
世界に音楽を送り続けているほんとうの場所なのだと思う。
どうか、
音楽を演奏したいと思うなら、
ぜひ、この場所まで飛び越えて来てください。
そこは音が鳴る前、
無音の世界に。