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ドラゴンは踊れない

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トリニダード文学の代表作でもある『ドラゴンは踊れない』が日本語に翻訳されているとゆうので読んでみました。

翻訳されたのは2009年と比較的最近なのですが、原作は30年以上も前に書かれた小節。もしかしたらよくわかんない退屈な作品かもしれないな〜と思いながらも、トリニダードのことがどんなふうに日本語に訳されてるのか知りたくて、トリニに通うヒトの課題図書のつもりで読んでみることにしました。

ところが!めちゃくちゃ面白かったんです!!

300ページ以上あって挿絵も写真もない、しかもものすごく細かい字がぎっしり詰まったこんな小節を、飽きずに読み切れるのか心配さえしたこの一冊が、気がついたらもう最終ページ、あれ?ここで終わりなん??みたいな勢いでザーッと読んでしまえる、流れるようなパワーがありました。その作品の魅力が多角的なんです。

まず、文章の表現方法が面白い。カーニバルのように全体を俯瞰したような表現から様々な登場人物の心の中にズームインしたかと思えばズームアウトして、そうかと思えば過去に未来に今にと視点が動いてゆくのが区切れ目ない、ほんとにまるでカーニバルのようにごった煮なかんじでいろんな要素がすれ違って物語がズンズン進んでゆく、それを、まるで亡霊の憑依のようにその肉体に出たり入ったりしながら体感できるように引き込まれてしまうのです。

そして、トリニダードの文化や社会現象を物語を通して知ることができるのもすごい。註釈が細かく解説されていて、これを読んでるだけでだいたいの60年代〜70年代のトリニダードの時代背景を体感できてしまう、トリニダード版の"オールウェイズ3丁目の夕日"的にも読める作品でもあります。

しかもわたしにとっては、ここに出てくる地名で行ったことないのはこの物語の中心になっているカルバリーヒル(行けたとしても大使館のヒトにお叱りを受けるような場所)と、北の外れの海辺の町、トコくらいなもので、マンザニラやサンデグランデのプランテーションとか、カルバリーヒルの様子もラバンティル通りをサンワンに抜けるあの町並に似てるだろうとイメージできるし、登場人物も似たような人がすぐあたまに浮かんでくる。ドラゴンのマスやスティールバンドはもちろんパプティストがどんな人たちなのか、挿絵とか写真とかなくてもすぐにピンとくることばかり。なんとなく知ってた点と点がこの本を読んで線になったり面になったりする発見もたくさんあって、さらに理解が深まりました。そして、今まではただ外国人として表面的にしか見れなかった彼らの内側の気持ちを、作者が代弁しているだろう物語を通して深く丁寧に知ることができた気がします。

さらに驚かされたのが、この物語を貫く"生きる"ことへの捉え方、考え方がじつにスピリチュアルなんです!じつに今の時代のスピリチュアルブームの"スピリチュアル"。30年以上も前の作品なのに2012年を超えた今の世界のいわゆるスピ系な人たちの感受性をズドンっとど真ん中を貫いてくる考え方は、きっと今の時代にもある受難と重ね合わせて、納得して読める作品だと思います。これが、この作品がくぐんぐん読めちゃう最大の秘密、最大の魅力ではないかなと感じました。

そして、日本語訳も素晴らしい。トリニダードの訛りを訳したり、文化的な背景を正しく理解するために実際に助手の人がトリニダードに来て取材や確認作業をしたり、翻訳にはとても時間がかかったそうですが、日本語としても勢いとリズム感のあるこの言葉の選び方なくしては、この作品をストレスなく読むことはできなかったと思います。翻訳ってやっぱり英語力以上に日本語力が大切だと再認識させられました。

ぜひこの翻訳を参考に、わたしの目標はスティールパンの歴史が書かれたいくつかの小説や歴史の本を翻訳すること!!去年やりはじめたけど、もう一旦は挫折してしまったことをもう一度やりはじめたいなと思いました。この小説の日本語訳を、わたしのバイブルにしたいです。

とにかく、アツいキモチになれる本でした。どの登場人物にも感情移入できて今を感じられる作品。この夏、キモチがアツくなりたい方、独立前のトリニダード・トバゴに小説を通して旅してみませんか? アールラブレイスの『ドラゴンは踊れない』は、そんな方に、この夏、全力でオススメしたくなる1冊です。